K16-C ドングリ号の房総鴨川航海記

 今年は千葉鴨川へ行こう・・と言い出した本人も本当にいくのかよ??と半信半疑でいるうちになんとなく計画が進み、8月7日夜明けとともにとりあえず城ヶ島を目指してセールをあげた。

・・・・・・というのも、鴨川に行くには一日ではちょっと距離(約55マイル)がある、そして、潮の流れが強い難所の野島崎を越えないといけない・・・。
昨年の下田行きも爪木崎越えがあったがあそこはまだ南風が強くなっても山陰に逃げ込めるコース取りが出来る、寄港地もある、しかし今度の須崎から千倉までは南風が吹くと風下は岩場続きで逃げ込めるところがない・・それどころか潮に対して帰りは逆行だ。 波が高くなったら恐ろしいことになるのでは??
・・・・今年は特に黒潮も接近しているし水温もこの辺が低くなっている。(一週間前から保安庁と気象庁の情報だけは集めていた)さらに、人に聞くところによると・・その辺はよく霧が出て視界が悪くなるというではないか!! 野島崎の岩礁で座礁し船体に大きな穴を開けたセールボートも見て知っている。
少々ナイーブになったり、それでも行ってみたいという気持ち入り乱れて半信半疑 本当にいくのかよ~という気持ちだった。しかしこの気持ちが面白い!!
16フィートのエンジンが付いているとは言えディンギーで行くからこんな思いをするのだろう・・ 慎重に慎重を重ねての計画をしなければ、いけない・・と思っているのだが・・・最終的には風まかせと言うところがある・・・歌じゃないけれども「吹かれたくない~吹かれたい~どうせ乗るなら一番ブネと~」という気持ちだ。
江ノ島を出港したときから機帆走で距離を稼ごうと決めていたが、城ヶ島からは風がなくなりエンジンに頼らなければ、前に進める状態でなくなった。
GPSが示す予定到着時間が距離とともに減少していくのが、(当たり前の話なのだが)我々を、前へ前へと進む気持ちを応援してくれているようだ。
そしてもうひとつの航海計器が携帯電話で通過点の風や波の情報がタイムリーに入手出来るようになっているから、この先がどんな様子か判る。
館山どまりにするか、前に進めるかは野島崎、勝浦、そして大島の情報を取って判断した。
どこも吹いていない、夏の高気圧真っ只中だ!!
須崎に到着すると、やはり波が高い、潮がぶつかっている様子。最初は岩礁が怖く、そこから距離を2マイルぐらい離して千倉の手前白浜まで行こう・・そうしたらこの波の中のコースはしょうがない、我慢しなくては・・と覚悟したのだが、デッキに立ち上がり岸をみるとそっちのほうが波がない。
早速行ってみると波が小さな走りやすい海面がそこにあった。 下田の時と同じように、波のないところを探し探し(少々距離は伸びるが)走ったほうが楽である。 ただし、岩礁には十分気をつけるため、海図とにらめっこである。

野島崎めざして


暑い暑い・・といいながら千倉の手前まで来た時、エンジンが突然止まる!! 
網の切れはしが絡まったのだ。 プロペラ、シャフト廻りに損傷はないようだが、エンジンがかからない。 こりゃ千倉止まりか??それにしても、ここから千倉までまだ6マイルある。 セーリングだけだと、5時間以上どの位かかるか解らない。・・・・非常にやばい状態だ。 一服したり、昼飯を食べたりして、漂流気味で1時間位を過ごす。
神様 エンジン掛って!!・・・と祈るようにスターターを回すと勢いよく掛った!!良かった~ア。
この事件で沖に流され、少し距離が増えたが、その後はエンジンの調子を見ながら鴨川に入港。16:30 江ノ島から12時間かかる。

鴨川入口仁衛門島


暑かった~ 夕飯は,鴨川に営業所を持つ福山オーナ行きつけのすし屋で、旨い地の寿司を食べる。 テレビの天気予報で「明日は大気が不安定になり、注意が必要」といっていた、沖縄近海で熱低が出来たようだ。心配だが、眠気の方が先で、「明日の朝どうするか決めよう!!」とそうそうに寝る。
8日朝の天気予報では、雨雲が南から北上し、場所によって雨が強く降るとの予報、野島崎、須崎、大島は風が吹いていないのを携帯で確認して、早く館山に戻ろう・・となった。
8時に鴨川を出発、今日も風がなく暑い太陽が見える、昨日よりも波もなくなっている。エンジン頼りで 千倉、白浜、と順調に進む。 野島崎に近づくと、雨雲らしき雲が多くなり雨が降り出す、不安定な天気はここから始まるようだ。
南洋で見られるような雲の形で、黒い雲の下では雨が降っていると判る。
野島崎を超えしばらく行くと、我々を追ってくるように黒い雲が発生し、時間とともにどんどん黒くなる。 やばい!!雨はまだいいが、突風、さらに雷と遭遇するのは勘弁だ。
そうなれば、布良に逃げ込もうか?まず雲の動きを観察するとともに、インターネットで雨雲の動きを時間経過を追って見られるので、その情報を家に電話して手に入れた。 雲は、南から北に動いていることが判り、このまま須崎を回り込むまで西には広がらないだろう・・雲は野島崎に上陸すると判断、早く須崎を回り込めば、突風に会ったとしても、山陰に逃げ込める、須崎を回るのにあと1時間・・とGPSが示している。
海底が見えるほど岸よりのコースを取る、まるっきり波がないから取れるコース、雷鳴も聞こえているようで、何しろ後ろから追ってくる雨雲につかまらないように、はらはらしながら、最短コースを取り須崎を狙う。 雨雲は野島崎、千倉などを真っ暗くしながら、上陸した模様、こちら須崎では晴れている。
館山湾に廻り込むとその雨雲と再会することとなり大粒の雨が降ってきたが、風はない。
波のない静かな館山湾を奥に進む。今日、館山は花火大会で、新しく出来た館山桟橋に日本丸が横付けされていてにぎやかだった。我々は、その東の漁港にスターンアンカーで自由係留する。 到着時間14:30、無事ここまで戻ってきた・・という感じである。

館山漁港に係留


館山駅で遅い昼夜兼用飯を取り、東京へ帰る浅岡さんと別れ、我々は再度ドングリの係留状態 を確認してから、鴨川行きの電車に乗った。 今回行程がはっきりしないため、鴨川で2泊予約したためだ。 館山から鴨川まで電車で45分位でそんなに遠くはない。しかし出発地にまた戻るなんてなんかへんな気分だ。
今日は直射日光に当たらなかったので、まだ元気があり、鴨川の飲み屋を探し歩き回るが、日曜の夜で、そのうえ館山の花火大会に人が行ってしまったようで、飲み屋街はさびしかった。それでもちょっと立ち寄り、時間を過ごした。
翌朝また電車に乗り館山に戻る。かなり大粒の雨が降っていたが、風はない。
館山を出港したのは8時、今日も一日エンジンに世話になる航海、GPSは正確に到着時間を示している。江ノ島まで6時間くらいだ。
途中、東京湾真ん中位でカジキが昼寝をしていた。水温が高いから、こんなところで見られるのか??
城ケ島の東口で強い上げ潮を受けてスピードがやたら出る、8ノットを超えることもある。エンジンを止め流れにまかせ計測したらば、2.5ノットを超える北東の流れに乗っているのだ。
城ケ島の橋の下をくぐるとあとは江ノ島を目指すだけだ。三崎フィシャリーナ航路出口に知り合いのモーターボートが舫っていて、声をかわした。下田からの帰りだそうだ、こちらは鴨川の帰りと伝えると、びっくりしていた。あちらが50フィートこちらは16フィート、同じ海域で会えるのがなぜか嬉しい。江ノ島が見えるとやっと帰って来た・・という感じだ。
エンジンは一生懸命働いてくれて無事に江の島に到着。14:30だった。今回は最初から最後までエンジンのお世話になった。
携帯電話で気象情報を取れたから、目の前の野島崎に黒い雲がかかっていても、風が吹いていないと解るので、進むことができた、雨支度も事前にすることができた。
GPSは目的地や通過点までの距離、所要時間などを教えてくれる。エンジンでの単調な航海でも、「あと残り何マイル、あと何時間何分」と教えてくれて、我々を励ましてくれた…ように思えた。
持って来たGPSは旧式なので、海図との相関関係を確認する必要があり、けっこう、海図とにらめっこの時間が多かった、航海術を得意とする福山オーナーからその都度講義があり、新しい知識が増えた、そして忘れていたことも思い出せた。
画面上にプロットする最新式のものより、多少旧式の方がある意味面白い。 
エンジンでの単調な時間を有意義に使った知的な?航海だった様に思う。

ドングリⅤ 乗組員 浅岡、杉山、福山の3名
2010年8月15日 艇長 杉山範洋記

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